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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)2390号 判決 1962年2月21日

控訴人(原告) 田口道徳

被控訴人(被告) 埼玉県知事 外二名

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、「一、原判決を取り消す。二、被控訴人埼玉県知事が別紙目録記載(1)(2)(3)の土地について昭和二十四年七月二日付で自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)第三条に基いてした買収処分並びに同法第十六条に基いてした同日付売渡処分はいずれも無効であることを確認する。三、被控訴人菊地八五郎は別紙目録記載(1)の土地について浦和地方法務局熊谷支局昭和三十一年八月九日受付第三、八八八号、同(2)の土地について同支局昭和三十年七月十五日受付第三、一八八号をもつてされた昭和二十四年七月二日自創法第十六条による売渡を原因とする各所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。四、被控訴人田口幸太郎は別紙目録記載(3)の土地について浦和地方法務局熊谷支局昭和二十八年七月十七日受付第二、三二五号をもつてされた昭和二十四年七月二日自創法第十六条による売渡を原因とする所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。五、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人はいずれも控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、いずれも原判決事実摘示の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所は、次の点を附加訂正するほかは、原判決の理由に記載されているのと同じ理由で控訴人の本訴請求はすべて理由がないものと判断するので、右理由の記載をここに引用する。

附加訂正する点は、次のとおりである。

一、自作地を小作地と誤認したことを理由とする主張について。

別紙目録記載(1)、(2)、(3)の土地(以下本件(1)、(2)、(3)の土地という。)を目的とする控訴人主張の賃貸借が、(2)の土地については昭和二十一、二年の二月頃、(3)の土地のうち道路寄りの五畝五歩については昭和二十一、二年の四月頃それぞれ賃貸借当事者の合意によつて解約され、控訴人において(2)の土地はただちに、(3)の土地中右五畝五分は昭和二十一、二年の六月頃いずれもその返地を受け、自己の耕作の業務の目的に供していたことは上記引用にかかる原判決認定のとおりであつて、右合意解約は、その時期が昭和二十二年法律第二四〇号(農地調整法の一部を改正する法律、同年十二月二十六日施行)の施行前に属するから、これにつき都道府県知事の許可(右一部改正法律附則第六条参照)を要せずしてその効力を生じたものと解すべきであり、従つて右合意解約にかかる各土地は控訴人の自作地となつたものと認めるべきところ、熊谷市成田地区農地委員会は本件(1)、(2)、(3)の土地全部が小作地なりとしてこれにつき買収計画を定め、被控訴人埼玉県知事は右計画に基き、自創法第三条第一項第一号による本件農地買収処分をしたのであるから(同法第六条の二または第六条の五の規定による遡及買収のため買収計画に基く買収処分ではない。)、右買収処分は合意解約によつて自作地となつた部分に関するかぎり、これを小作地なりと誤認してした違法なものであり、かかる違法は本件買収処分における重大な瑕疵と認めるべきである。

ところで、行政処分の瑕疵が処分の無効を来すには、その瑕疵が重大であるほか、さらに瑕疵が明白なものであることを要するから、以下この点について考察するに、成立に争いのない甲第九号証、同第十号証に原審証人金子梅吉の証言を総合すれば、前記買収計画の樹立前、控訴人が前記農地委員会に提出した農地一筆調査申告書には本件(2)の土地を含む四畝二十七歩及び前記五畝五歩を含む(3)の土地はいずれも控訴人の自作地として記載されており、同農地委員会における一筆調査責任者金子梅吉は、同委員会の補助員三沢某の実地調査に基き右各土地はいずれも控訴人の自作地と認め、右申告書に調査の結果としてその旨の記入をしていることが認められ、また、本件弁論の全趣旨によれば本件買収の対象となつた各土地は前記買収計画樹立当時現に控訴人によつて耕作の業務の目的に供されていたことが明らかではあるが、元来農地が自作地なりや小作地なりやは耕作の業務を営む者が所有権に基きその業務の用に供しているかまたは賃借権その他所有権以外の使用収益権に基きその業務の用に供しているかによつて定まるものであつて、かかる賃借権等の使用収益権の存否を適確に判定することは容易になしがたいところであるから、前記農地一筆調査の結果、調査員において右各土地が自作地なりと認めたとしても、これをもつて該土地が客観的に自作地であることが明白になつたものとは必ずしもいうことはできず、また単に現在耕作に従事する者が何人であるかによつてのみ自作地、小作地の区別を判定することは極めて困難であるところ、本件においては、前記農地委員会が右各土地を被控訴人菊地、同田口の小作地と認定するに至つたのは、右被控訴人らにおいて上記合意解約の事実を争い、控訴人の一方的な土地の引上が行われたと主張したことに起因して原判決認定のとおりの経緯により右各土地につき適法な合意解約がされなかつたものと認めた結果、前記一筆調査申告書の記載に反する結論に達したのであるから、かかる事情に鑑みるときは、右の結論によつて樹立された前記買収計画及びこれに基く本件買収処分が明白な瑕疵を有するものとはなしがたく、他に本件において前記瑕疵を明白なものと認めるに足りる具体的な主張立証がない。

二、原判決理由中第一の三のうち「訴外白根金蔵所有の田一反五畝二〇歩」(記録四百七十八丁表一行目)とあるのを「訴外白根金蔵所有の田一反五畝二十一歩(乙第七号証中総括の部(記録二六四丁裏)に田七反四畝二五歩とあるのは田七反四畝二六歩の計算違いと認める。)」に改める。

よつて、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 川喜多正時 中田秀慧 賀集唱)

(別紙目録省略)

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